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第9話 猟奇領主が狙う散切り金髪

ผู้เขียน: 日蔭スミレ
last update ปรับปรุงล่าสุด: 2025-11-22 09:30:56

 ──姿を現したのは、ヨハンと年端も変わらぬ長身の男だった。

 青光りした濡れ羽色の髪は癖もなく、短く綺麗に切り揃えられており、上品な艶がある。緩やかに下降した目の輪郭には澄み切った空色の瞳をたたえている。

 日焼けはしておらず、色白で体躯が細く──どこか女性的にも思えてしまうほど。非常に端正な顔立ちの青年だった。その背後には、がっしりとした髭面の男が控えている。

 すると、自警団の男たちは皆、ハッと我に返り恭しく頭を垂れた。

 何事か……。

 イルゼは思いヨハンを見るが、彼も頭を垂れていることに驚いてしまう。

 頭を下げぬままのイルゼに気づいたのか、チラリと横目で見たヨハンは慌てて、イルゼの頭を下げさせた。

「ん。どうしたのぉ。っていうか、頭上げなって。皆揃って、なんか……そーしてると、すんげぇ馬鹿みたい」

 随分と癖のある喋り方だった。高音とも低音とも受け取りがたい声色も掠れており、かなり癖がある。しかし、どこか妖艶な甘みを含んでいた。

 男の声から一拍経過して、ヨハンはイルゼの頭を押さえた手を離す。そうして、イルゼが顔を上げると、濡れ羽色の髪の男は周囲を見渡して「キヒヒ」と、品性の欠けた笑い声をこぼす。

 見た目がいかにも繊細そうな上、上品なので意外だ。あまりに酷いギャップだろう。感情が乏しいイルゼでも、さすがに驚いてしまい口をぽかんと開いた。

「ああ、申し訳ございません。ミヒャエル様。丁度事件があったようで、事情聴取をしていたそうで……」

 後ろに控えていた体躯の良い男が心底申し訳なさそうに言う。

 恐らく彼が団長だろうか。中年ではあるが、たるみなどなく騎士の如くがっしりとした体格と貫禄からそう窺えた。

 ミヒャエルと呼ばれた黒髪の男は「いいや」と、横に振ってヘラリと笑んだ。

 ……ミヒャエル。どこか聞き覚えのある名前だ。

 一般的な男性名ではあるが……。

 この人は何だとイルゼは首を傾げる。すると彼は、空色の瞳をキラキラと輝かせてイルゼに近づいてきた。

 その面ときたら、まるで新しいおもちゃでも見つけた少年のようだった。

 こんな視線を向けられるなど、不可解だ。イルゼは困惑しつつも彼を見上げて訝しげに首を傾げたときだった。

「ちょっとさぁ。何だかさっきから、少し聞こえてて滅茶苦茶気になってたんだよねー。胸くそ悪い姉貴が腹が立つーって女の子が肉切り包丁を振り回したとかなんとか? え、君がやったの? こんなちっこくて細いのに?」

 目を爛々と輝かせて男はく。イルゼは戸惑いつつ頷くと、彼は吊り上がった口角を更に引き上げる。

「へぇ~やるじゃん」

 やるじゃん。とは……。

 返答に困ってしまい、彼から視線を反らそうとした途端、彼はイルゼのおとがいを掴んで上を向かせた。

「だーめ。目ぇ反らさないでよ。ん……君、すごく可愛い顔してるね? 折角、綺麗な金髪なのに、残念なことになっちゃってるねぇ」

 彼は背を折り曲げて、イルゼを舐めるように見つめる。

 その視線がねっとりと突き刺さり、恐ろしく思ったイルゼは目を瞑ると彼はクスクスと笑いをこぼす。

「ん、キスされたいの?」

 それもどこか嗜虐的に言われるものだから、イルゼは目を開いて首を横に振り乱した。

「りょ、領主様……お戯れはそれくらいになさってください。俺の妹です……」

 おどおどとヨハンが言うと、彼はイルゼを解放して、スッと身体を起こした。

「ふーん。あんた兄貴なんだ」

 まるで興ざめとでも言わんばかりの口調だった。

 空色の瞳をジト……と、細めて彼は頭からつま先まで吟味するようにヨハンを見る。

 ……しかし領主と。それを聞いて、イルゼは妙に腑に落ちた。

 イルゼは早朝など人通りがまばらな時しか街に降りたことが無い。

 否、殺人犯の父親を持つ立場を気遣ってかヨハンはイルゼを街に行かせなかった。

 なので、領主の名こそ分かっていようが、具体的にどのような容姿をしているのかは知らなかったのだ。

 この辺鄙へんぴな田舎街──ツヴァルク伯爵領の領主、ミヒャエル・ツヴァルクは、〝奇人変人の猟奇領主〟として領地中にまかり通っているのだから。

 

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